利用条件
- チャンネルの購読はのに限られます
- チャンネルの購読はに限られます
- チャンネルの購読はに限られます
- チャンネルの購読はに限られます
- チャンネルの閲覧には新しい働き方会議へのアカウント登録/ログインが必要です
注意事項
- 購読ライセンスの期限を超えると、チャンネルを閲覧できません。購読ライセンスを新たにご購入ください
- 一度ご購入された購読ライセンスの返金はできません
これまでのご利用、誠にありがとうございました。
(記事全文) 多くの若者が「社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)」を目指すようになりました。官でもなく、営利だけを求める民間企業でもない「新しい公共」といわれる分野です。社会に横たわる課題を解決することに挑戦する人たちで、ベンチャースピリッツを持ち合わせています。その第一人者で、病児保育という新しい事業分野を開拓した駒崎弘樹さん(フローレンス代表理事)に挑戦への思いを聞きました。 駒崎弘樹(こまざき・ひろき)氏 79年生まれ。大学卒業後、フローレンスを立ち上げ、日本初の非施設型の病児保育サービスを展開。著書に「『社会を変える』を仕事にする」などがある。 夏野 僕は実は、「社会起業家」という言葉がすごく嫌いなんです。なぜかというとあらゆるビジネスはつまるところ何らかの形で社会に貢献すべきだと思っているので、起業家と社会起業家を分けて使うのは二つの「逃げ」があるのではないかと思っています。社会起業家と名乗りたい人の逃げは、お金のことを考えないという逃げです。もう一方の逃げは、「俺たちは起業家!」というビジネスセクターっぽい人が、お金稼ぎに邁進するという逃げです。企業は社会の一員ですし、すべてのビジネスはどこかで社会に貢献することで成り立っているはずです。悪いことをして儲けるビジネスは永続的に発展できませんから、時間で淘汰されます。そういう意味で、あえて社会起業家という言葉を使うのは、好きじゃないんです。その社会起業家の一番手と呼ばれる駒崎さんはどう思われますか。 駒崎 僕は社会起業家と自称はしてないですけれど(笑)。慶応大学の湘南藤沢キャンパス、SFCを2003年に卒業し、フリーターになってフローレンスを立ち上げたころは、社会起業家という言葉はありませんでした。外資系金融機関に就職したような友達は「何やるのお前?NPO?えーっ大丈夫なの?」という時代でした。 そこから社会起業家という言葉が出てきて、「あなたは社会起業家なのかもしれないね」って言われて、すごく生きやすくなったんですよ。当時NPOと言っても「ンポ?ってなんですか」と言われるぐらいの知名度でした。「NPOってボランティア団体でしょう?」「いやいやそうじゃないんです」「アフターファイブに活動しているのはわかりましたけど、本業は何なんですか」「いえ本業がこれです」という状況だったんです。社会起業家という名前ができることで、職業なんだと認知されたという意味において助かったなと思いました。 社会起業家は何のアンチテーゼとして出てきたのか。補助金づけのいわゆる旧来の市民セクターに対して、ちゃんとビジネスやろうよ、というアンチテーゼとして出てきたのです。アメリカが発祥です。アメリカもレーガン政権の時などはたくさん補助金が出ましたが、双子の赤字(財政と経常収支の赤字)で、補助金は切られて、どんどん市民セクターは倒れていきました。でもそれでいいのかという機運が高まり、MBA(経営修士号)をとった人などが参加して、はじまったのがソーシャルビジネス、ソーシャルアントプレナー(社会起業家)です。 それが10何年遅れて日本にやってきたのです。お金をもうけようとするビジネスのアンチテーゼとして出てきたわけではないのです。 夏野 なるほどそういうことか。いってみればサステナビリティー(持続性)という言葉とまったく同じですね。つまりちゃんとビジネスとしてお金が回らないと活動し続けられないというところから出てきた概念が社会起業家なのですね。 駒崎 補助金とか自治体からの委託費にすべてを依存していたらダメなのです。自主事業である程度回らなければいけない。僕もバックグラウンドはITベンチャーでした。病児保育と言うと、まったくもうからない業界だったのですが、なんとか利益が出て持続できるようにしなければとやっていたら、「ソーシャルベンチャーだね」と言ってもらえるようになってきました。 夏野 なんで普通のアントレプレナー(起業家)でなくソーシャルアントレプレナーになったのですか? 駒崎 僕はもともとITベンチャーの経営者をやっていました。やっていくなかでアイデンティティークライシスに陥った。楽しかったんですけれど、これが本当に自分のやりたいことなのかと、疑問を持ったのです。 夏野 2003年ぐらいだとモバイル系のベンチャーがたくさん出てきて、バブっていたころですね。西麻布で飲んで合コンやっているような若手経営者がたくさん出てきた時代でした。 駒崎 それって本当に僕のやりたいことなのか、と思う青臭いところがありました。もっと人の役に立つ、社会を変えるようなことをしたいなと思ったのです。それでアメリカのNPOを見てみたら、ウェブをつくっている僕らの会社のウェブよりもおしゃれだったんですよ。何でNPOがこんなに本格的なウェブ持っているのだろうと思いました。NPOのボードメンバーを見ると、CEO(最高経営責任者)とかがいるんですよ。「何でNPOにCEOなの? マーケティングディレクターもいるよ!」と驚きました。 NPOからソーシャルビジネスへという流れが生まれていたのです。「これだ!」と思いました。ビジネスという剣を持って、社会の課題を解決していくということができるかもしれないと知りました。 それじゃ自分にとっての社会問題ってなんだろう、と考えたのです。僕の母親がベビーシッターをしていました。母が「熱を出した子を預かれない」と言うのですね。子どもを抱えたお母さんは、子どもの預け先がなくて何日も会社を休まざるを得ないから、戦力外通告されて、会社を辞めた話を聞いたのです。 「そんな話が21世紀の今、あっていいのか? しかも日本は世界第2位の経済大国なのに」と憤りました。子どもが熱を出すのは当たり前のことだし、親が看病するのも当たり前のこと。そんなことで職を失う国があっていいのか、と思ったのです。 夏野 世の中に対する「義憤」のようなものからはじまったんですね。 駒崎 「オレが解決してやる」と踏み込んでみたら、めちゃくちゃいばらの道だったですけれどもね。補助金をもらわずにやろうとはじめてみたら大変だったし、事業として成り立つようなビジネスモデルでなんとかしようとしたら「もうけ主義だ」と揶揄(やゆ)された。いろんな人たちから攻撃されつつも、ちょっとずつ歩み、市民権を得ることができました。 夏野 事業として病児保育はまったく割に合わないじゃないですか。子どもはいつ病気になるかわからないから稼働率は悪い。そんなにたくさんのお金を払えないから当然収入にも限界があります。どうやってマネジメントしたのですか。 駒崎 ベビーシッターのように時間で料金を計算するという「従量制」だと成り立たないので、「月額定額制」ではどうか、と考えました。 夏野 実は僕らがつくったiモードのコンテンツビジネスがそうでした。 駒崎 夏野さんの本も拝読させていただき、やっぱり定額制だな、と。当時動画サイトとかも全部定額制。スポーツクラブも定額制です。病児保育もそういったものに近い。保険に似ているのです。だから保険みたいに定額で掛け捨てのように払っといて、使うときには安くなるみたいなモデルはどうかと考えて、掛け捨ての共済型ではじめました。 夏野 いまはいくらですか。 駒崎 平均値ですけど月額6800円ぐらいです。この月会費は使わないとどんどん下がっていく。使うと上がっていく。まさに保険なんです。思想的にも病弱な子をみんなで支えようという考え方です。病弱な人がいっぱい使うと割に合わないのですけれど、使ってない人も払ってくれるので、まあ成り立っているという感じです 夏野 すばらしいアプローチだ。自動車保険みたいですね。 駒崎 そうすると定額でお金が入ってくるようになるので固定で人も雇えるようになる。事業として回っていきます。 夏野 いまはどれぐらいの人が利用しているのですか。 駒崎 3千世帯を超える家庭に入っていただき、日本では最大規模です。 夏野 3千組ぐらい入ってくれると成り立つのですか。 駒崎 いやもっと少なくても成り立つので一応黒字です。 夏野 いまのサービス地域は東京だけですか。 駒崎 いえ首都圏です。横浜、川崎、千葉の一部も含まれます。全国展開しようと思っていたのですが、支社を作ったりすると展開が遅くなるかもしれない。自分たちでやるよりも、むしろノウハウをオープンにして誰がやってもいい、という仕組みを考えました。 弟子入りしたいという女性がいたのでノウハウを教えてあげて、彼女が「ノーベル」というNPOを立ち上げて、フローレンスとまったく同じモデルで関西地域で事業をやっています。また病児保育のノウハウをもっと広げようと思い、「認定病児保育スペシャリスト」という資格をつくり、専門学校といっしょにウェブで学べるEラーニングをはじめました。合格したら資格がとれます。病児保育できる人が増えれば、ベビーシッターが病児も見られるし、保育園でも病児を受け入れられるようになる。 夏野 僕の子どもが保育園のときは大変だった。子どもが行っていた保育園は進んでいて、病児用の畳の別室があって、そこで病気でも預かってくれました。でもその部屋が埋まっているとダメでした。ただ、その時、思ったのは子どもの病気にはどんな種類があって、どう対応すればいいのかを知っている人がいてくれるだけで全然違うということです。 駒崎 いまの保育業界は健常児のための保育園なのです。子どもは熱が出るときもあれば、健康なときもあるスペクトラムな存在です。それなのに、ある部分だけきりとって正常、あとは異常みたいな対応になっています。 夏野 朝はものすごく熱があったのに、夕方には治ったりもします。 駒崎 保育は、本当は全体性をもってどんな子にも保育の光を当てなくてはならないのに、リスク過敏になって健康な子だけを対象にしているのです。そこを変えていきたい。すべての子どもにどんな状況であっても保育を提供できるようにしたいのです。 夏野 ここまで来るには、大変なことはありませんでしたか。 駒崎 手本になるベンチマークがありませんでした。海外の事例を調べましたが、これが全然あてにならない。例えば米国は移民がベビーシッターの担い手となっています。24時間面倒もみてくれます。欧州だと、そもそも親が会社を休めます。全然モデルとなるケースがないから苦労ずくめの10年間でした。 夏野 親御さんとのトラブルはありませんでしたか。 駒崎 幸い、お客さまはいい人が多かったです。最初のお客さんは、僕がその人の家まで行って入会手続きしたのですが、そのお父さんは「僕はコンサルタントやっているのだけれど、君のビジネスモデルは利益率が低そうだが、大丈夫なの」と心配してくれました。また「君たちがいないと僕はこまっちゃうからつぶれないでほしい」と言ってくれる投資銀行の人もいて、「大丈夫です。なんとか頑張ります」と答えていました。利用者の皆さんは、いい人が多くて、値上げするときに僕は土下座ぐらいの感じでお願いに行ったら、「いいよ。いいよ」と言ってもらえたこともありました。ユーザーの方々に支えていただきました。 夏野 理解者のネットワークを広げるのは、NPOとして重要ですね。その人たちがどこで応援してくれるかわからない。 駒崎 そうなんです。ユーザーの方が寄付してくれたり、マスコミで働いている人がユーザーだったら、記事にして応援してくれたり。普通のビジネスではありえないことだと思います。そういうありえないことに助けられてきました。敵もすごく多いんですけど味方もすごく多かった。 夏野 なぜ敵になる人が多いのですか。 駒崎 病児保育は今までお医者さんが病児保育所でやっていました。補助金をもらっていましたが、赤字でもものすごく頑張ってやっていました。そこに医者でもなくて、わけの分からない20代でIT業界から来たやつが、うさんくさいビジネスモデルでやっている、と中傷されたりしました。 夏野 でも病児保育所なんて聞いたことないですよ。 駒崎 全国に800ぐらいあります。でも保育所の2万6000と比べると圧倒的に少ない。僕としては病児保育が広がって、一人でも多くが助かることがゴールなのだから手法はどうだっていいんじゃないかと思いました。病児保育を施設でやる形もあるし、僕らみたいに訪問もある。それなのに昔から病児保育所を運営している人たちは、自分たちが否定されている、と思われたのでしょうね。 「登ろうとしている山は同じです、登り方が違うだけじゃないですか。仲良くやっていきましょう」と一生懸命説明しているのですけれど。 夏野 理解してもらえますか。 駒崎 まだまだです。僕たちが決めた認定病児保育スペシャリストという資格についても、「そんな資格はまがい物だ」と言われることがいまだにあります。 また僕らは小規模保育園を始めました。普通の認可保育所は定員が20人以上いないと認可されません。都市部で20人が収容できる保育所向けの空き地を探すのは大変なため、保育園が増えません。だから待機児童も増える。でもよく考えたら20人という数字に根拠はない。厚労省に電話して聞いたら、「前からそうなっているんです」と言うだけです。 人間工学的な根拠のようなものはないわけです。9人でも10人でもいいはずです。そうなると3LDKのマンションを保育園にかえられる。 当時の官房副長官の方と知り合いだったので、「実験させてほしい」とお願いしました。その方が厚労省と調整してくれて実験させてくれました。それで「おうち所保育園」と名付けて2010年4月に江東区のUR都市機構で始めました。9人の定員に20数人の申し込みがきました。つまり親たちは小規模であることを気にしていないのです。 それがきっかけで内閣府の待機児童対策特命チームのリーダーだった村木厚子さん(現厚労事務次官)が中心となって、子ども・子育て支援法という法律の中で、待機児童が集中している場所で保育所を増やすために、小規模認可保育所という制度になりました。来年4月から全国どこでもできるようになったんです。これで待機児童問題がかなり解決することになると思います。 夏野 来年4月以降、保育所が増えていきますね。 駒崎 そうですね。フローレンスじゃなくても、空き家があれば保育園ができます。保育士を集めれば、9人の子どもを預かれる。参入しやすくなります。 夏野 小規模保育にも敵はいませんか。 駒崎 むちゃくちゃ攻撃されています。要は規制緩和ではないかという批判です。庭のない部屋で保育ができるのかと言うのです。近くの公園に行けばいいのだから、できるのですけれど。 夏野 もともと保育園の領域はものすごく曖昧です。認可か認可じゃないかとか。それで何の違いがあるのかも保護者にはわからない。 駒崎 公務員じゃないと質が低い、という人もいます。 夏野 それはありえないですね。 駒崎 いまだにそんな神話が続いています。福祉の領域は、イノベーションのやりどころがいっぱいあります。これから社会保障費がどんどん上がっていくなかで、少ない資金で多くの便益を利用者に与えることが必要です。この領域でイノベーションをどんどん起こしていきたい。(つづく) (コメント) 日本における社会起業家の代表的な一人である駒崎弘樹さんのインタビューが掲載されていたので転載します。興味を持たれた方は『社会起業家になるには (なるにはBOOKS) 』(籏智優子著 ぺりかん社)を読んでみるといいかも知れません。駒崎さんの起業過程の苦労などについて詳細なインタビューが掲載されています。マイナーな本ですが、日本の社会起業の具体的なイメージを掴むにはとてもよい本だと思います。病児保育のフローレンスの他にも、市民農園事業のマイファーム、知的障害者支援の豊生ら・ばるか、学習支援の3keys、医療コーディネートの楽患ナース、児童養護施設就職支援のフェアスタート、ミドリムシ事業のユーグレナ、食を通じた地域再生のタウンキッチンなどの社会起業家が紹介されています。